走塁に関する問題



1 塁の占有権

 「塁の占有権」とは、そめ塁に触れている限り、野手に触球されてもアウトにならないと言う権利である。(8−3項3(注1))
 アウトになっていない走者または打者走者は、他に走者がいない塁に触れたことにより、その塁の占有権を得る。
 そして、その走者は、
 @アウトになる
 A他の走者のために、その塁を明け渡す義務が生じる
まで、その権利(塁の占有権)は存続する。
 注意することは、その走者が塁を離れるか、あるいは次の塁に触れることがあっても、その塁に対する占有権は存続している。次の塁に触れると、通常その塁の占有権ができるが、投手が投球姿勢にはいるまでは、もとの塁へ帰ることができるので、その走者は2つの塁に対する占有権があることになる。


2 塁を明け渡す義務

 占有権は、塁を明け渡す義務が生じるまで続くと上で説明したが、この「塁を明け渡す義務が生じる」とは、次のような場合をいう。
 @打者が打者走者となった場合
 Aその塁を占めていた走者が戻ってきた場合
 例を示すと、@の場合は、
 一塁に走者Aがいるとき、打者Bが走者になると、Bが一塁へくることになるので、Aは一塁を明け渡して二塁へ進まねばならなくなる。
 Aの場合は、
 二塁走者Cが塁を離れて二、三塁間に挟まれている闇に、一塁走者Dが二塁に触れると、Dには二塁に対する占有権が生じる。しかし、走者Cが二塁に戻ってきた場合、Dは二塁を明け渡さなければならない義務が発生するので、二塁を捨てて一塁へ戻らなければならない。
 @の場合のように、打者が打者走者となったため、後位の走者に押し出されて、自動的に次の塁へ進まなければならなくなった状態を「フォースの状態」と呼んでいる。

3 1つの塁に2人の走者

 以上のことで、塁の占有権の意義とその始期及び終期について理解されたと思うが、1つの塁に2人の走者が占める状態となったとき、ルールではどのように表記されているか、 念のために調べてみることにする。
 ルールには、「2人の走者が同時に同一の塁を占めてはならない」と規定されており、そのような事態が生じたときの塁の占有権について、次のように定めている(8−3項5及び8−3項〈効果〉5)
 すなわち、1つの塁を2人の走者が占めたときは、「最初に正しくその塁を占めた前位の走者に占有権があり、後位の走者は触球されればアウトになる。」とされ、「フォースの場合だけ、後位の走者に占有権がある。」としている。
最後に、前にもあげたような具体的な事例で確認をしておきたい。


 二塁走者Aが塁を離れて二、三塁間に挟まれている間に、一塁走者Bが二塁に達した。しかし、Aが挟撃をくぐり抜けて二塁へ戻ってきたので、二塁上にAとBの2走者がいることになった。
 野手はどうすればよいか。



 もうお分かりであると思うが、Aに触球してもアウトにならない。これは、Aに塁の占有権があるからで、単独で塁に融れているときに鯨球されてもアウトにならないのと同じ理由である。Bに触球してはじめてBがアウトになる。塁に触れてはいるが、占有する権利のない塁に触れているので、塁を離れているときに触球されればアウトになるのと同じ理由である。

 だいぶ以前のことであるが、上の事例のように、二塁に2人の走者ができたことがあった。このとき守傭側は、どちらに触球したらよいか分からず、AとB両方に触球したので、審判員がアウトを宣告したところ、二塁の走者Aもアウトと勘違いして、三塁側のベンチに戻るため三塁方向に向かって行った。
 ところが、攻撃側の監督はAがアウトではないことを知っていたので、「早く三塁へつけ!」と叫んだため、Aはたやすく三塁を踏むことができた、という笑い話のような実例があった。
 当時チームの監督をしていた私は、この例から、選手に対し塁の占有権の説明をするときに、いつも次のようなことを話したと記憶している。
 塁上に2人の走者が占めたときは、後位の走者がアウトとなるが、「両方の走者に球をつけて、前位の走者の動きに注意し、うっかり塁を離れた瞬間を見逃すな」と教えた。相手の錯覚に乗じて、2人とも一緒にアウトにしてしまえと、いう智恵づけである。

 このときに、次のことも付け加えておいた。
もし、自チームが攻撃側のときは、「どっちか足の遅い方が、早く塁を離れてアウトになれ」と。
 いささか技巧に走りすぎている感もないではないが、監督たるもの、ルールをよく研究し、これを作戦面に生かすことも大切なことと、信念を持って実践していた時代が、今となっては懐かしい。




(c)2005 Y.HASEGAWA 長谷川征雄氏の《ルール研究の特別講義資料》ソフトボール・ルールの探求から(抄)